医療の発展が目覚ましい現代においても、有効な治療法が存在しない疾患が多くあります。また、低所得国および低中所得国などでは、医療インフラの未整備、貧困などが原因で、必要な医療を受けることが困難な方が数多くいます。当社は「病気と苦痛に対する人間の闘いのために」という企業理念の下、「革新的な医薬品の研究開発」、「医療基盤改善」、「外部とのパートナーシップ形成」に取り組むことにより、人々の医療アクセスの改善を目指しています。当社は現在、日本、韓国、台湾において医薬品の自社販売を行っており、日本を含むアジアにおいては、今後も希少疾病医薬品を含め医療アクセス改善に自社で取り組んでいきます。アジア以外の地域においては、パートナー会社を介して医療用医薬品を提供できるよう取り組んでいきます。また、NPOや公益社団法人グローバルヘルス技術振興基金とのパートナーシップにより、医療教育や医療基盤整備などの中長期的な医療システム強化支援に取り組んでいきます。
当社は、創薬の過程から生まれる様々な知的財産を保護、活用することで、革新的医薬品を継続的に生み出していく一方で、第三者の所有する知的財産を尊重した活動を行っています。また、一部の国では、経済的な理由で医療アクセスが困難な実態があります。より多くの患者さんに当社の革新的な医薬品を届けるため、国連が定める後発開発途上国※1や世界銀行が定める低所得国※2では特許出願や特許権の行使を行いません。さらに、世界銀行が定める低中所得国※3においても、一部の国を除き特許出願や特許権の行使を行いません。
当社の医療アクセス改善への方針および取り組み内容は経営陣により監督されています。
医療アクセスに関する新たな取り組みは、常務執行役員/コーポレートコミュニケーション統括部長を委員長とするCSR委員会で審議・承認されます。また、その活動状況はCEOを議長とする経営会議に定期的に報告しています。
希少疾患への取り組みは医療アクセス改善にとって重要です。当社は希少疾患の医薬品開発および医薬品提供について以下のように取り組んでいます。
(2022年7月29日現在)
製品名 | 適応症※4 | 希少疾病用医薬品指定日 | 開発状況 |
---|---|---|---|
オプジーボ点滴静注 | 悪性黒色腫 | 2013.06.17 | 承認済 |
ホジキンリンパ腫 | 2016.03.16 | 承認済 | |
悪性胸膜中皮腫 | 2017.12.01 | 承認済 | |
原発不明癌 | 2021.3.11 | 承認済 | |
デムサーカプセル | 褐色細胞腫におけるカテコールアミン分泌過剰状態の改善並びにそれに伴う諸症状の改善 | 2015.05.25 | 承認済 |
カイプロリス点滴静注用 | 再発又は難治性の多発性骨髄腫 | 2015.08.20 | 承認済 |
オノアクト点滴静注用 | 生命に危険のある下記の不整脈で難治性かつ緊急を要する場合:心室細動、血行動態不安定な心室頻拍 | 2016.08.24 | 承認済 |
メクトビ錠 | NRAS又はBRAFV600遺伝子変異陽性の悪性黒色腫 | 2013.12.4 | 承認済 |
ビラフトビカプセル | BRAFV600遺伝子変異陽性の悪性黒色腫 | 2013.12.4 | 承認済 |
ベレキシブル錠 | 中枢神経系原発リンパ腫 | 2019.08.20 | 承認済 |
原発性マクログロブリン血症及びリンパ形質細胞リンパ腫 | 2019.11.19 | 承認済 |
小児患者には、小児のために適切に評価された医薬品が用いられるべきです。当社では、小児患者の医療アクセス改善を目指し、以下のように小児に対する適応取得に取り組んでいます。
(2022年7月29日現在)
製品名 | 適応症 | 開発状況 |
---|---|---|
オノンドライシロップ | 気管支喘息 アレルギー性鼻炎 |
承認済 |
イメンドカプセル | 抗悪性腫瘍剤(シスプラチン等)投与に伴う消化器症状(悪心、嘔吐)(遅発期を含む) | 承認済 |
プロイメンド点滴静注用 | 抗悪性腫瘍剤(シスプラチン等)投与に伴う消化器症状(悪心、嘔吐)(遅発期を含む) | 承認済 |
オレンシア点滴静注用 | 多関節に活動性を有する若年性特発性関節炎 | 承認済 |
デムサーカプセル | 褐色細胞腫のカテコールアミン分泌過剰状態の改善 | 承認済 |
オプジーボ点滴静注 | 再発又は難治性の古典的ホジキンリンパ腫 | 承認済 |
オノアクト点滴静注用 | 心機能低下例における頻脈性不整脈(上室頻拍、心房細動、心房粗動) | 申請中 |
当社は、2018年より慶應義塾大学、高知大学、岩手医科大学、医薬基盤・健康・栄養研究所、田辺三菱製薬株式会社、第一三共株式会社とともに、免疫炎症性難病を対象とした創薬研究を行うことを目的に、「免疫炎症性難病創薬コンソーシアム」を発足しました。本コンソーシアムから得られる成果が、免疫炎症性難病に対して高い有用性を持つ次世代医薬品の創製につながり、患者さんや医療従事者に新たな治療選択肢を提供することが可能になるものと期待しています。
当社では、医療システム支援と働き方改革の両方を推進させるための取り組みとして、2018年8月よりONO SWITCH プロジェクトに取り組んでいます。本取り組みは、働き方改革の推進により削減した時間外手当に応じた金額を医療に関係する以下のNPO・NGOに寄付する取り組みで、働き方改革の推進および世界の医療と健康に貢献し、「病気と苦痛に対する人間の闘いのために」という企業理念の具現化をより一層推進することを目的としています。
寄付先は、毎年全社員対象としたアンケートをもとに決定致します。2020年度に下記の3つのNPOに寄付を行い、2021年度の活動に活かされました。現地での医療課題と活動内容は下記の通りです。
パートナー(当社が支援する活動地域) | |
---|---|
現地の医療課題 | |
世界の子どもにワクチンを 日本委員会(ブータン) | |
ブータンはまだ自国で必要なワクチンを全て賄う体力がなく、ワクチンで予防できる感染症で命を落とす子どもたちがいます。また、ワクチンのアクセスに必要な保冷設備も十分ではありません。 | |
2021年度計画 | 2021年度結果 |
|
|
|
|
|
|
KPIワクチンと保冷庫の供給数 |
支援したワクチンは全て2021年12月までにブータンに到着しています。まとまった支援により、遠隔地の診療所でも常にワクチンの在庫を確保することができ、高い接種率を維持することができました。 ![]() ![]() |
パートナー(当社が支援する活動地域) | |
---|---|
現地の医療課題 | |
ジャパンハート(カンボジア) | |
ポルポト政権(1970年代)によって、医師や教師など多くの知識層を中心に国民の1/4が虐殺され、政権崩壊後に生き残った医師はわずか数十名でした。その後、政府は国内の医師不足を解消するために、医学生を1年で卒業させ、医療に従事させるという政策を取り、技術も知識も未熟な医師が医療を担うことで医療崩壊を経験しました。現在でも周辺国と比べ、国内の医療水準は低く、設備の整った医療機関も少ない状況であり、医療人材の育成が大きな課題となっています。ジャパンハートが2016年に設立した『ジャパンハートこども医療センター』では、貧困層に対し無償で医療を提供しながら、現地の医療人材の育成も行っています。本医療センターがなければ、この地域の貧困層は、高度医療にアクセスできない状況です。患者数は年々増加し、本医療センターでは必要な医療機器の不足や故障が課題となっています。 | |
2021年度計画 | 2021年度結果 |
新生児の黄疸早期発見のための検査機器と黄疸の光線治療器等の寄贈 現在、使用中の黄疸診断に必要なビリルビン※5測定器が故障を繰り返しているため、新しい検査機器を寄贈。また、黄疸治療に必要となる光線療法機器について、安全性の高い最新機器を寄贈。新生児の体温管理に必要な医療機器を寄贈。
KPI黄疸治療が必要な新生児を早期発見し、安全性の高い光線治療が行えた件数/出生後、体温管理の必要な新生児へ適切な温度下で治療を行った件数
KPI新生児に対し、適切な呼吸のサポートや体温管理ができるようになった現地医療者数 |
寄贈した検査機器は、分娩後入院した赤ちゃん全員の検査に、光線治療器は、新型コロナウイルス感染症拡大の影響により入院受け入れを中止している期間には、連携している公立病院でビリルビンが気になる赤ちゃんにも使用されました。ジャパンハートからは、「寄贈された測定器を使用し、安全の確認を行う事ができました。測定器での測定値をもとに不要な採血を避ける事ができています。また、光線療法を開始した後の評価もしやすくなりました。ビリルビン上昇を予防する事ができています。これまでに使用していた機器と比べて中央値や履歴などが確認できるようになり使用しやすくなりました。また、入院患者53名に加えて、複数の外来患者さんでも測定することができました。」との報告をいただいています。 新たに寄贈したインファントウォーマー(開放型保育器)は、温まるまでの時間がこれまで使用していたものよりも短く、そして処置する面積が広いため、とても使いやすく処置がしやすくなりました。産婦人科医の滞在時には帝王切開時のベビーキャッチなどでも使用しています。 出生後、体温管理の必要な新生児へ適切な温度下で治療を行った件数:10件(繰り返し使用中)
![]() ![]() |
医療者を目指す学生教育支援 医学部、看護学部に進学できるほど優秀でも、家庭の経済的理由で就学が難しい学生のために学習支援と卒業後2年間のジャパンハートこども医療センターでの研修期間をサポートしています。2021年度は2018年度から支援しているカンボジア人看護学生に対する支援を継続します。 KPI看護学生の4年次への進級 |
2018年度から支援しているカンボジア人看護学生は、2021年11月15日に4年次へ進級しました。現在は新型コロナウイルス感染拡大の影響を受け、オンラインでの授業を継続しています。 彼女は成績が優秀なだけでなく、授業の無い日には医療活動のボランティアにも積極的に参加しています。今はまだ医療従事者ではないものの、「医療の届かないところに医療を届ける」ため、学生のうちからできる事を探し、とても頼もしい存在に成長しています。 ![]() |
ジャパンハートこども医療センター周辺の環境整備(雨期の衛生環境の改善) ジャパンハートこども医療センター周辺の庭が整備されておらず、例年、雨期になると水溜まりができます。長期間水が溜まることで、蚊の発生の原因にも繋がります。また、道がぬかるむことで患者さんや付き添い家族の方の足が汚れやすくなり、院内の床も汚れてしまいます。これを解消するために、水が溜まりやすい場所から下水道までの水を引く水路を作るとともに、病院前の砂利道を舗装することで、病院周辺の衛生環境を改善します。 |
ジャパンハートこども医療センター周辺の環境整備により、車いすの使用時には振動が軽減し利便性が上がりました。これまでは晴れた日には砂埃が舞い上がり院内に入り、雨の時には玄関入口まで泥で汚れておりましたが、舗装されてからは綺麗な状態を保つことができています。雨が降った後でも患者さんやスタッフの足元が汚れにくくなり、院内が清潔に保たれ快適に過ごすことができています。また、水路も確保できるようになってからは、水捌けが改善し、長期間水が溜まる事を防ぐことができています。衛生環境も大幅に改善されました。 ![]() |
パートナー(当社が支援する活動地域) | |
---|---|
現地の医療課題 | |
ピープルズ・ホープ・ジャパン(ミャンマー) | |
ミャンマーの地方農村部では、妊産婦死亡率と新生児死亡率が都市部よりも高いことが課題です。また、基礎的な母子保健サービスの利用においても、都市と地方間の地域間格差が大きく、経済的な要因やアクセス環境が大きな影響を及ぼしています。現状、地方農村部では1年間で約2,400人(2017年)の妊産婦と約22,000 人(2018年)の新生児が尊い生命を失っています。主な原因としては認識、アクセス、ケアの3つの遅れであると報告されています。これを防ぐためには、住⺠の知識の向上と健康行動の改善、そして、保健サービスを提供する側の環境改善やサービスの質の向上、さらには地域の保健システムを管理する保健当局の能力の向上などが必要です。 | |
2021年度計画 | 2021年度結果 |
助産師及び補助助産師へのスキル・モニタリング(2回目) 2020年度に引き続き、2回目のスキル・モニタリングを実施し、学習した知識やスキルが臨床の現場で生かされているか、その定着度と改善度を測定します。さらに現地のニーズに応じて母子保健推進委員の育成なども予定しています。 KPIアセスメントシートを用いたスキル・モニタリングを実施 |
2021年2月以降、ミャンマー国内情勢は厳しい日々が続いており、計画された助産師および補助助産師へのスキル・モニタリングと助産師の卒後研修及び補助助産師のリフレッシュ研修は実施することができず、次年度へ延期することになりました。当初の計画に変わって、地域住民と保健サービスとをつなぐ橋渡しをする母子保健推進員(ボランティア)の育成を行いました。 2022年3月、妊婦健診、新生児のケア、妊娠期の危険兆候などに関して、ボランティアに対する研修を2回に分けて実施し、13村60名の母子保健推進員を育成しました。3回目は2022年5月に実施される予定(6村25名)です。なお引き続き、ニーズと安全が確認された村から順次育成していきます。育成された母子保健推進員は、安全を確保しながら保健教育や妊産婦の家庭訪問など、一人ひとりの妊産婦に寄り添った活動を行っています。 ![]() (※画像はイメージです。2019年8月撮影) |
助産師の卒後研修及び補助助産師のリフレッシュ研修 2020年度に予定していた研修を、現地の環境が整い次第、実施いたします。 KPI研修を実施(保健当局との連携による3~5日間の研修プログラム)
|
2020年度に支援しておりました、Future Code(支援地域:バングラデシュ)の活動は新型コロナウイルス感染症拡大の影響により、国の規制が厳しく予定より遅延しておりました。新設を予定していた病院が2021年12月にオープンし、当社はその施設へPCR検査機器を寄贈しました。2022年5月10日時点で、新型コロナウイルス感染症を診断するためのPCR検査を合計31件実施しています。そのうち陽性と診断された12名には治療を行い、陽性者における死亡者数は0名でした。PCR検査を実施した患者のうちの61%の貧困層には無償で治療を行っています。
当社は、公益社団法人グローバルヘルス技術振興基金(以下、GHIT Fund)に2018年に加盟しました。GHIT Fundは、マラリア、結核、顧みられない熱帯病などの市場性の低い治療薬や、ワクチン、診断薬などの新薬開発に対して投資を行う国際的な非営利組織で、日本政府、ビル&メリンダ・ゲイツ財団、ウェルカム・トラスト、国内外の民間企業から資金拠出を受けています。先進国と低中所得国間における健康格差是正を目指すため、GHIT Fundの投資により開発される治療薬、ワクチン、診断薬の価格は、「無利益・無損失(No Gain, No Less)」の原則に基づき決定されます。これらの取り組みと考え方に共感し、当社は、GHIT Fundへの資金拠出を実施しています。GHIT Fundへの参画を通し、低中所得国の医療アクセス改善に向けたパートナーシップ形成を強化します。