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TCFD提言に基づく情報開示

リード文

当社は、2019年10月に「気候関連財務情報開示タスクフォース(TCFD, Task Force on Climate-related Financial Disclosures)」提言への賛同を表明しました。TCFD提言に沿って、気候変動に関連するリスクと機会の評価や管理を行い、適切に情報開示を行います。

小野薬品工業株式会社 経営企画部 兼 CSR推進室, 小野薬品工業株式会社 CSR推進室, system

ガバナンス・戦略・リスクと機会・指標と目標

ガバナンス

当社は、地球環境の保全を重要な経営課題(マテリアリティ)の一つと認識しています。マテリアリティへの対応、中長期環境ビジョンECO VISION2050のもと中長期環境目標の達成に向け、代表取締役社長を環境経営の最高責任者とし、環境担当役員として代表取締役 副社長執行役員を任命しています。

組織・会議体 地球環境保全における役割
取締役会 地球環境保全に関するリスクと機会や取組の進捗状況を四半期に一度環境委員会から報告を受け、業務執行を監理・監督する。
サステナビリティ戦略会議 環境担当役員が議長を務め、代表取締役社長、各本部長、監査役、及び議長が定める本社事業所長出席のもと、地球環境保全の取組を含むサステナビリティ戦略についての重要事項について討議する。年2回開催する。
サステナビリティ推進委員会 各本部の業務部署長等をメンバーとし、環境課題を含む全社のサステナビリティ課題に対する取組について討議し、サステナビリティ戦略会議に提案・報告する。年6回開催する。
環境委員会 工場や研究所など各拠点の環境課題に対する取組を管理・推進する委員会として、年4回開催。検討内容は、サステナビリティ推進委員会および取締役会に報告する。
TCFDワーキンググループ(WG) 社内関連部門の責任者をメンバーとし、サステナビリティ推進部CSR推進室が事務局となり、リスクマネジメント委員会と連携して、気候変動によるリスクと機会の分析・特定を行い、対応策の進捗を管理する。
リスクマネジメント委員会 企業活動全般におけるリスク管理体制を整備・構築し、リスクマネジメントグローバルポリシーに基づき全社的リスク管理活動を推進する。

取締役会は環境目標に対する進捗、TCFDおよびTNFDで行ったリスクと機会の内容について報告を受け、地球環境の保全全般にわたり、監理しています。

戦略
~気候変動関連のリスク・機会の分析・評価~

2019年度にTCFD提言に基づいた気候変動によるリスクと機会の特定、財務影響額の評価、対応についての検討を開始し、毎年、対応状況の確認や対応後の影響額について見直しを行ってきました。2023年度はサステナブル経営方針や見直した中長期環境目標を反映すべく、リスク・機会の分析を含め、再評価を行いました。

気候変動シナリオの選択とシナリオ下における世界観

低炭素社会に向かう1.5℃シナリオ(RCP2.6, IEA NZE 2050およびIEA SDS)と温暖化が進む4℃シナリオ(RCP8.5)を選択し、分析、評価を行いました。情報が不足している場合は、IEA STEPSシナリオなども参考にしました。

1.5℃ シナリオ 4℃ シナリオ
世界中で気候変動対策に関する厳しい法規制が施行され、炭素税の導入が進む。同時に、省エネルギーの推進や再生可能エネルギーに関連した技術革新が進んでいる。企業の法規制対応、気候変動対策に関する投資は増えるが、地球上の温室効果ガス排出量は一定程度に制御されている。
気温上昇が抑えられていることから、温暖化による健康への影響は軽微で、自然災害も現在より大きく増えることはない。投資家をはじめとするステークホルダーは気候変動対策や地球環境保全を重要視している。
気候変動の法規制は現行と変わらず、気温上昇が進む。企業の法規制対応の影響は小さいが、安価で品質の高い自然資本利用が難しくなる。また温暖化に伴う、豪雨・台風・洪水・水不足などの自然災害も頻発・甚大化する。さらに感染症や呼吸器疾患、熱中症などの健康被害も増加する。
リスクと機会の分析範囲

分析範囲は、当社主力事業である医薬品事業における、研究・開発・調達・生産・流通・販売・使用・廃棄にわたる全ての段階とし、自社工場、国内外の製造委託先およびサプライヤーの他、投資家、顧客、社員(人財採用含む)等といった幅広いステークホルダーとしました。

分析期間

短期(~3年)、中期(3~10年)、長期(10~30年)の3期に分類して検討しました。

事業への影響

事業への影響度は、金額と発生可能性を考慮して総合的に大中小で評価しています(大:事業活動の継続に影響、中:事業の一部に影響がある、小:ほとんど影響がない)。

その他

製薬企業にあてはまる、物理リスク(急性・慢性)と移行リスク(政策・法規制、市場、テクノロジー、評判)、機会(資源効率、エネルギー、製品とサービス、市場、レジリエンス)と社内インタビュー結果からリスクと機会の候補リストを作成し、リストから定性評価により当社と関連性が高いものを絞り、その後にリスクと機会の分析を行いました。
財務影響額は新中長期環境目標にける自社の温室効果ガス排出ゼロの目標年度である2035年度を想定し、事業の成長に伴い、製造量やエネルギー使用量が増加している前提を置いて算定しました。

参考資料とツール(抜粋)
  • World Energy Outlook2023(発行は国際エネルギー機関IEA)、各省庁による公開情報、治水経済調査マニュアル、JPEXや自然エネルギー財団の公開情報など
  • Aqueduct Water Risk ATLAS(世界資源研究所(WRI)が公開する、世界各地の水リスクを示したマップ)、国土交通省や各自治体のハザードマップ、A-(国立研究開発法人国立環境研究所が運営する気候変動適応情報プラットフォーム)

<気候変動関連のリスク>

TCFDのリスク分類 期間 事業への影響 主な対応策
1.5℃ 4℃
政策・法規制 炭素税導入による税負担の増加 中長
(約8億円)
  1. 省エネルギー施策と再生可能エネルギー調達の実施
排ガス規制による営業車の使用制限
(約4億円)
  1. 環境配慮車(HV車、EV車等)への移行
気候変動対策費の調達コストへの価格転嫁 中長
(炭素税の影響額は約2億円)
  1. ビジネスパートナーとの協働によるスコープ3排出量の削減
各国・地域の法規制・排出規制への対応の遅れによる機会損失 中長
  1. 各国の規制動向の把握
  2. 規制動向を反映した戦略決定と対応実施
テクノロジー 気候変動対策のための投資コストの増加 短中長
(約9億円)
  1. 運用改善など省エネルギーの推進
  2. 環境関連補助金の活用
市場 再生可能エネルギーの需要競争激化による調達難
  1. PPA導入など再エネ調達方法の拡大
  2. RE100等のイニシアチブ活動への参加を通した政策提言
評判 環境目標未達による企業価値低下 短中長
  1. 中長期環境目標達成に向けた施策推進
  2. 適切な情報開示
物理リスク(急性) 自然災害(豪雨・洪水・台風など)による操業の一時中断 中長
(~100億円)
  1. BCP対策の徹底
    (十分な原薬・製品在庫の確保/複数サプライヤー体制の構築)
  2. ビジネスパートナー選定プロセスにおける、自然災害リスク確認の継続
物理リスク(慢性) 水不足による生産への影響
水不足のリスクが高い地域に自社工場および主要製品の原薬製造委託先はないため、現時点で操業の中断が起きる可能性は低
い。
中長
  1. ビジネスパートナー選定プロセスにおける水不足リスクの確認
  2. 十分な原薬・製品在庫の確保
気温上昇に伴う空調設備等運用コストの増加 中長
  1. 運用改善や設備投資などの省エネルギー施策の推進

シナリオ分析の結果、大規模な事業転換や投資が必要な気候関連リスクは認識されませんでした。但し、自然災害による製造拠点・調達品への影響、各国・地域の法規制などのリスクを継続して分析していくことが重要だと認識しております。特に、4℃シナリオの物理リスク「自然災害(豪雨・台風・洪水)」については、高品質な医薬品の安定供給に影響を及ぼすリスクになりうると捉えています。引き続き、十分な在庫確保や生産・調達の複数拠点対応などBCP対策を推進いたします。

<気候変動関連の機会>

TCFDの機会分類 期間 事業への影響 主な対応策
1.5℃ 4℃
資源効率性 効率的な電力の利用によるコスト削減 中長
  1. 運用改善や設備投資などの省エネルギー施策の推進
  2. 連続生産方式などの高効率生産プロセスを通じた省資源化
  3. グリーン・サステナブル・ケミストリーの概念を考慮した創薬技術の推進
  4. 共同輸送など流通プロセスの効率化
市場 省エネルギーおよび再生エネルギーに関する補助金の活用 短中長
(~5億円)
  1. 政策動向の注視と補助金の積極的な活用
自社事業 新たな健康被害に対する新製品・サービスの開発
  1. オープンイノベーションの活用
評判 先進的な気候変動対策による企業価値の向上
(他社との差別化や従業員の雇用・定着)
短中長
  1. 積極的な省エネ・再エネ施策の推進と適切な情報開示

気候変動により、感染症や呼吸器疾患、熱中症など健康被害の増大が懸念されます。当社は医療用医薬品(革新的な新薬)の創製により社会に貢献すべく取り組んでおり、当該疾患に対する治療薬が見いだされた場合は、その機会を最大限に活かしていきます。革新的な新薬の提供によって患者さんやそのご家族に貢献するだけでなく、人々が健康で健全に暮らせる社会であるよう、炭素循環社会の実現に向けて取組みます。

リスク・機会の管理

特定したリスク・機会、およびその対応策、機会推進のための施策の進捗は、環境担当役員を責任者とし、社内各機能の責任者をメンバーとするTCFD-WG、および工場や研究所など各拠点の環境課題を管理・推進する部門横断の環境委員会にて管理しています。管理状況は、上記カバナンスに記載の環境マネジメント体制を通して、取締役会が監理する体制をとっています。また、気候変動関連のリスクは、リスクマネジメント委員会に共有され、事業継続に影響を与えるリスクはリスクマネジメントグローバルポリシーに基づき全社的リスクとして管理しています。
(リスクマネジメントについてはこちらをご覧ください。)

対応策の進捗やその進捗による影響額の変化については、TCFD-WGおよび環境委員会にて毎年見直しを行い、リスク・機会の分析・評価の見直しは、中期経営計画の策定および環境関連の方針や目標の改定・改訂に合わせて数年に一度の単位で実施します。

指標と目標

当社は様々な地球環境課題に対する取組を強化・加速すべく、2023年より見直した目標のもとで活動を推進しています。計画および進捗については、こちらをご覧ください。

温室効果ガス排出量
(スコープ 1+2)
2025年にカーボンニュートラルを達成する(ボランタリークレジットを活用した実質ゼロ)
2035年にゼロにする
温室効果ガス排出量
(スコープ 3)
2030年に30%削減する
2050年に60%削減する
  1. 基準年:2017年
購入電力に占める再生可能エネルギー比率 2025年に100%とする
  1. 対象:自社事業所

また、当社では「地球環境の保全」をマテリアリティのひとつと位置付け、全社で活動を推進しています。取締役(社外取締役を除く)および執行役員を対象とした業績連動型株式報酬の業績評価指標に「マテリアリティへの取組」および「ESG指数への採用状況」を導入し、環境を含めたサステナビリティ経営を推進しています。

ステークホルダーとの対話

当社は、TCFD提言に基づく適切な情報開示や社会全体の気候変動対応促進に寄与するため、業界団体や行政との連携、ステークホルダーとの対話を重視しています。その一環として、TCFD 提言に賛同する企業や金融機関などが、企業の効果的な情報開示や適切な取組について議論する場である「TCFD コンソーシアム」に参加しています。
また、地球環境保全の取組を推進する業界団体および各種イニシアチブに参画しています。イニシアチブ等への加盟・脱退、またイニシアチブを通じた政策提言は、当社の方針に合致しているかどうか等について環境委員会で議論したうえで、上記ガバナンスに記載の体制を経て取締役会が監督する体制をとっています。加盟しているRE100においては、政策提言に向けた議論の場にも参加しています。(環境関連のイニシアチブ・業界団体活動についてはこちらをご覧ください。)

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