当社は、2019年10月に「気候関連財務情報開示タスクフォース(TCFD)」の提言への賛同を表明しました(詳細は、こちら)。TCFDは企業に気候変動がもたらす財務的影響の把握、開示を促すために、金融安定理事会(FSB)によって設立された組織であり、2017年6月に情報開示のあり方に関する提言を公表しています。当社ではこの提言を踏まえ、気候変動に関連するリスクと機会の評価や管理を行い、適切な情報開示を行っていきます。
当社は、気候変動を含む地球環境課題への対応を重要な経営課題の一つと認識しています。
代表取締役社長を環境経営の最高責任者とし、環境統括責任者として取締役専務執行役員経営戦略本部長を選任しました。
気候変動対策を含むサステナビリティ戦略についての重要事項は、2022年度より新たに設置したサステナビリティ戦略会議にて討議しています。サステナビリティ戦略会議は環境統括責任者が議長となり、代表取締役社長を含む経営会議メンバーの多くが出席しています。サステナビリティ戦略会議での討議・決定事項は、半年に1回以上の頻度で取締役会に報告され、取締役が決定事項の遂行を監督します。
さらに、環境統括責任者は、サステナビリティ担当役員として、全社の環境の取り組みを管理、推進する環境委員会および現場レベルのサステナビリティ活動の重要課題について討議し、サステナビリティ戦略会議に提案するサステナビリティ推進委員会の委員長を務めています。
このように、気候変動への取り組みは、現場レベルから一貫して環境統括責任者(取締役専務執行役員)が統括してマネジメントし、それを取締役会が監督する体制としています。
当社では、「地球環境の保護」を中長期的な企業価値向上を目指す上での重要課題(マテリアリティ)のひとつと位置付けるとともに、取締役(社外取締役を除く)および執行役員を対象とした業績連動型株式報酬の業績評価指標に「マテリアリティへの取り組み」や「ESG指数への採用状況」を取り入れることで、環境課題に対する意識向上やサステナビリティ経営の推進を図っています。
2019年度に環境統括責任者を責任者とするTCFD検討ワーキンググループを立ち上げ、気候変動におけるリスクと機会の特定ならびに財務的影響を評価するとともに、対応について検討しました。グループのメンバーには、責任者の環境統括責任者のほか、関連主要部署責任者(財務責任者、経営企画責任者)やリスクマネジメント室の責任者も加え、経営戦略の一環として気候関連課題に取り組んでいます。特定されたリスクおよび機会の財務的影響は、毎年、同グループにおいて見直しをかけています。さらに、特定されたリスクに対する緩和策、適応策、ならびに機会推進のために施策について環境委員会において討議されます。環境委員会における討議内容は、前述の環境マネジメント体制を通して、取締役会により監督されています。
気候変動に関するリスク・機会については、TCFDワーキンググループが中心となり、1.5℃シナリオおよび4℃シナリオを用いて、短期(~3年)、中期(3~10年)、長期(10~30年)の視点でリスクと機会の分析、評価を行っています。2021年度は、2020年度に引き続き、製品構成や仕入れ先の変更等を勘案し、物理的リスク*1について影響額を見直すとともに、認識したリスクへの対応状況を確認しました。さらに、海外の製品在庫および治験薬在庫に気候変動の高リスクがないことを確認しました。2022年度は、認識した洪水リスク箇所の改善(保管場所を低所から高所に移管)により、財務影響額を大幅に軽減しています。移行リスク*2の影響額については、新・中長期環境目標設定時に仮置きした無対策の場合の温室効果ガス排出量の値と整合させ一部見直しました。分析の結果は環境委員会、サステナビリティ推進委員会等の各会議体に報告され、いずれのシナリオにおいても当社にとって財務上重大となるリスクにはならないことが確認され、把握したリスク・機会の管理状況をチェックしています(分析結果は下表の「気候変動に関するリスク/機会および財務・事業上の影響」を参照ください)。今後も国際社会の動向を継続して注視するとともに、財務的影響の比較的大きいリスク・機会の影響を把握していきます。
当社シナリオを想定した場合の当社への影響は下記です。
要因 | 対象 | リスクと影響 | 影響を受ける期間 | 財務 影響 |
管理手法 | ||
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1.5℃を目指す社会 | 規制によるリスク | 自社 | 炭素税の負担増 | 気候変動に関する規制が強化され炭素価格が上昇し、かつ、高成長を達成しエネルギー使用量等が増加した場合、温室効果ガス排出量への炭素税負担が増加する可能性がある | 中長期 | 16 億円 |
緩和
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調達先 | 調達価格への炭素税の転嫁 | 気候変動に関する規制が強化され炭素価格が上昇し調達先の温室効果ガス排出量にかかる炭素税負担が増加し、かつ、増税分が当社調達価格へ転嫁された場合、コストが上昇する可能性がある | 中長期 | 6 億円 |
緩和
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4℃上昇した場合 | 物理的影響によるリスク | 自社、製造委託先、サプライヤー | 洪水リスク(急性) | 急性的な台風等の被害(洪水)リスクが大きくなり、製造設備毀損による操業の中断や原材料や製品の貯蔵設備の毀損または浸水により収益の低下を招く可能性がある | 短~長期 | 3 億円 |
適応
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水不足リスク(慢性) | 充分な在庫を確保しているため、長期的な水資源枯渇により、水の使用制限による操業の中断が発生し、収益の低下を招くリスクは現時点ではない。 | 中長期 | 0 億円 |
適応
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緩和気候変動の原因となる温室効果ガスの排出削減対策, 適応既に生じている(あるいは、将来予測される)気候変動による影響による被害の防止・軽減対策
短期:~3年、中期:3~10年、長期:10~30年
要因 | 対象 | 機会と影響 | 影響を受ける期間 | 財務 影響 |
管理手法 | ||
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1.5℃を目指す社会 | 資源の効率性による機会 | 自社 | 高効率製薬プロセス | グリーン・サステナブル・ケミストリー*を考慮したプロセス設計や連続生産等の高効率製薬プロセス技術の導入により、エネルギーや原材料コストの削減等の機会と成り得る
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中長期 | 23 億円 |
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4℃上昇した場合 | 事業による機会 | 顧客 | 予防・治癒製品 | 温暖化により疾病動向が変化した際に、それらに対する既存医薬品(メラノーマ治療薬等)の需要が高まる、または新薬を開発販売することで収益に好影響を及ぼす可能性がある | 中長期 | 5 億円 |
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1.5℃を目指す社会 | 評判による機会 | 投資家、顧客、採用市場 | 企業価値向上 | 当社の気候変動への取り組みが顧客からの信頼獲得、従業員の定着、人財採用での評価向上、ESG投資家からの評価向上等の企業価値創出に寄与することが想定される | 短~長期 | (企業価値創出として寄与) | 実施した活動結果の適正な外部公表 |
TCFD検討ワーキンググループにて、脱炭素社会に向かう1.5℃シナリオと温暖化が進む4℃シナリオを選択、分析、評価を行いました。
【気候変動シナリオの考え方】
(「気候変動 2013自然科学的根拠 政策決定者向け要約」(IPCC、2013)のP.19 世界平均地上気温変化をもとに当社作成)
シナリオ | 主要シナリオ名 | 社会の変化 | 当社の状況 |
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4℃(脱炭素政策が不透明) | RCP8.5シナリオ、公表政策シナリオ等 |
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1.5℃(脱炭素政策が強化) | 持続可能な開発シナリオ、 日本独自の外部データ等 |
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網羅的にシナリオを参考にし、想定外を無くすために可能な限り温度帯が異なるシナリオを自社シナリオの元として利用しています。
名称・特徴 | IEA WEO (World Energy Outlook) |
詳細 | 自社に利用した主な観点 | |
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![]() |
RCP 8.5 |
CPS (Current Policies Scenario) |
Pessimistic scenario (SSP3 RCP8.5)(Aqueduct Water Risk Atlasツール) |
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RCP 6.0 |
公表政策シナリオ (STEPS: Stated Policies Scenario) |
STEPSシナリオ (国際エネルギー機関、IEA: International Energy Agency) |
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RCP 4.5 |
- | - | - | |
RCP 3.4 |
- | - | - | |
RCP 2.6 |
持続可能な開発シナリオ (SDS: Sustainable Development Scenario) |
先進国の炭素価格:2030年に$100/t-CO2、IEA SDSシナリオ) |
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RCP 1.9 |
- | - | (自社シナリオの検証中) | |
その他 | 日本独自の外部データ | 国土交通省ハザードマップ、治水経済調査マニュアル | 当社主要拠点が位置している国内のシナリオとして利用。 |
分析の範囲は国内の自社工場、および国内外の製造委託先、サプライヤー、投資家、顧客、人財採用等を含み、期間は2020~2030年度を、分野は当社主力事業である医薬品製造業を検討対象としました。
気候変動が財務に及ぼすリスク・機会を把握し、発生時期や発生確率、影響を及ぼす範囲を分析、評価した上で、対応策の優先順位を決定しています。事業への影響が大きいリスク、発生確率の高いリスクへの対応や費用対効果が高い対策に優先して取り組み、環境委員会において進捗を管理しています。
また、特定したリスクについては、全社リスクマネジメント委員会においてリスクの緩和・適応のための対策を検討の上、サステナビリティ戦略会議あるいは経営会議に提案し、承認を得ています。生産事業所や研究所などの責任者が、これら承認された対策の実行にあたり、洪水リスクを含め気候変動に伴うリスクを総合的に管理し、その進捗状況は環境委員会、サステナビリティ推進委員会等の会議体で共有されます。
なお、特定したリスク・機会およびその財務的影響額は、毎年、TCFDワーキンググループにおいて見直しを行っています。さらに、特定したリスクに対する緩和策、適応策、ならびに機会推進のための施策についてTCFDワーキンググループおよび環境委員会において討議されます。環境委員会における討議内容は、(上述の「ガバナンス」記載の)環境マネジメント体制を通して、取締役会により監督されています。
気候変動にともなうリスクの最小化と機会の最大化を目指し、中長期目標および年度目標の設定やモニタリングを継続して実施しています。移行リスクについては、これまで 2050 年度に温室効果ガスの自社排出(Scope1+2)をゼロにする目標を掲げ、2019 年 10 月には SBTi* からその当時最も高いレベルの「1.5°C 目標」に承認されるなど、早期から野心的な目標を設定してきました。2022 年度には目標を見直し、2025 年度に自社排出(スコープ 1+2)のカーボンニュートラル(カーボンオフセットでの相殺による実質ゼロ)達成を目指すとともに、自社の温室効果ガス排出量ゼロ達成を 2050 年度から 2035 年度に前倒ししました。
当社のサプライチェーンにおける温室効果ガス排出量(スコープ3)については、環境省のガイドラインに従い国内事業所を対象に算定しています。2023年1月より、医療用医薬品の国内物流における共同輸送開始し、輸送の効率化によるCO2排出削減にも取り組んでいます。
水リスクについては、年に1回リスク分析を行い、全社リスクの一つ「災害/気候変動リスク」として取り上げ、BCP(事業継続計画)に基づき、適正な製品在庫の確保等の対策を実施しています。今後も、取引先との協力体制の構築や複数供給先の確保、取引先選定プロセスにおける気候変動による洪水・水不足の影響の勘案等についても検討していきます。
TCFD提言に基づく適切な情報開示のためには、社外ステークホルダーのTCFD開示に関するご関心事や課題を理解することが重要です。この一環として、当社は、TCFD 提言に賛同する企業や金融機関などが、企業の効果的な情報開示や適切な取組について議論する場である「TCFD コンソーシアム」に参加しています。さらに、2019年度から継続して実施している機関投資家向けの「ESG説明会」を2022年3月に実施し、ご意見やご質問をいただきました。また、当社のTCFD提言対応の取り組みは、環境省「民間企業の気候変動適応ガイド -気候リスクに備え、勝ち残るために-(改訂版、令和4年3月)」において、先進事例として掲載されました。このようなステークホルダーとの対話や行政との連携によりTCFD開示への理解を深めることにより、社会全体の気候変動対応促進にも寄与できると考えています。
環境省「民間企業の気候変動適応ガイド -気候リスクに備え、勝ち残るために-(改訂版、令和4年3月)」