水循環社会の実現に向けた方針
水は人々の生命や健康を維持する上で重要な資源です。当社にとっても革新的な医薬品を創製し、患者さんに安定供給するためには良質な水が不可欠です。当社は、水の効率的な利用、適切な排水管理、およびステークホルダーとのエンゲージメント強化を通じて、地球環境への当社事業の負の影響を最小化し、持続可能な水循環社会の実現に取り組みます。
- 最新技術の積極的な採用や運用改善を通じて、水の効率的な利用を推進します。大幅な生産計画等の増大がない限り、前年度と同程度あるいは前年度以下の水資源使用量を目指します。
- 自社の生産および研究拠点、ならびに重要な取引先に対して水関連リスクを定期的に評価し、リスクが見出された場合、リスク軽減に向けた取り組みを実施するとともに、これらの情報を適切に開示します。
- 自社の事業所からの排水を適切に管理するとともに、取引先にも排水管理の徹底を求めます。
- 社内外のステークホルダーとのコミュニケーションを強化し、水循環社会の実現に努めます。
- 従業員への研修や情報発信を通じて、水循環社会の実現に向けた意識の醸成に務めます。
水に関するリスクの分析と評価
水に関するリスクについては、環境委員会およびその下に設置しているネイチャーポジティブ分科会(旧、水分科会)が中心となり調査を行い、事業に影響を及ぼすと考えられるリスクを把握し、分析、評価を行っています。
また、2023年度、自然関連財務情報開示タスクフォース(TNFD)の提言に沿って水関連リスクを再特定し、リスク軽減のための対応策を検討しました。詳細は「TNFD提言に基づく情報開示」をご覧ください。
主要なリスクと対応
1.水不足リスク
- リスク評価
- 当社の総取水量の95%以上を占める工場および研究所について、世界資源研究所の水リスク評価ツール(Aqueduct)を用いて水不足の指標である水ストレス(その地域における年間の水利用量を利用可能な年間の水の量で除した値)を評価しました。その結果、水ストレスが「高い(High risk)」または「非常に高い(Extremely high risk)」と判定された工場および研究所はありませんでした。また、工場および研究所が立地する地域における渇水履歴や水源余裕率等について、デスク調査および自治体へのヒアリングを行いましたが、過去20年以上渇水による取水制限はなく、自治体の水供給量にも十分余裕があることから、自社の工場および研究所においては緊急性の高い水不足リスクはないと評価しました。
自社工場および研究所における水ストレスに関するリスク評価結果(Aqueduct) 水ストレス 事業所 低~中リスク 山口工場、城東製品開発センター、水無瀬研究所 中~高リスク フジヤマ工場、筑波研究所 高い または 非常に高いリスク 該当なし - 対応
- 自社工場および研究所が立地する地域には緊急性の高い水不足リスクはないと評価したものの、水使用量が多い工場および研究所においては、毎年、水使用量削減のための計画を立案し、水の効率的な利用により水使用量の削減に努めています。製薬用水および注射用水設備の効率的な運用やボイラー排水用冷却水の削減に加え、これまで削減施策を実施してこなかった設備の給水配管に超音波流量計を設置し、内訳を把握することで次の削減ターゲットの絞り込みを行っています。また、空調結露水や冷却水の再利用などの効率的な水利用の取り組みも進めています。これらの取り組みにより、2018年度以降、水使用量は毎年連続して前年度以下となっています。さらに、水循環社会の実現に向けて、従業員に節水に関する啓発を行っています。引き続き、従業員を巻き込み水使用の効率化を進めるとともに、地域の豊かな水資源の保全につながる施策を推進していきます。
2.水質汚染リスク
- リスク評価
- 医薬品の研究、製造の過程等で使用される原材料や中間体、開発品や医薬品の有効成分といった化学物質には、人々の健康や生態系に悪影響を与えるリスクがあります。万が一、当社の事業活動に伴う水質汚染やそれに伴う危害が発生した場合には、地域のステークホルダーに重大な影響を与えるだけでなく、当社事業にも大きな影響を与える可能性があります。
有害性が既知で法規制により管理される物質については、工場および研究所からの排水中の濃度をモニタリングすることでリスクを評価しています。また、開発品や医薬品の合成中間体および有効成分など環境への有害性が未知である化学物質については、水生生物への影響を指標にリスクの評価を進めています。 - 対応
- 自社の工場および研究所において、有害化学物質の使用削減に努めます。法規制で管理される物質については、法規制が定める排水中の許容限度を遵守することはもとより、一部の化学物質については自治体との協定により定めた基準値あるいは自主基準値を設定し、法規制よりも厳しい管理値での排水管理を行っています。2024年7月、さらにこの運用を強化するため、有害化学物質については法規制より10倍厳しい自主管理目標値(法規制の許容限度の1/10)を設け、管理を開始しました。また、開発品や医薬品の有効成分など有害性が未知な物質については、コンピューターシミュレーションによる定量的構造活性相関(QSAR)により有害性を予測するとともに、リスク評価体系の構築を進めています。
3.取引先における水関連リスク
- リスク評価
- TNFD提言に沿って取引先の事業活動に伴う水への依存および影響を評価しました。医薬品製造に関わる全取引先に対して、Aqueductを用いて水ストレスおよび洪水リスクの評価を実施しました。さらに、当社の事業継続にとって重要な取引先に対しては、環境マネジメントシステムの認証取得状況や過去の重大な環境事故や違反の有無を調査し、排水等の汚染リスクを評価しました。
- 対応
- 水関連リスクを軽減させるため、重要な取引先に対して、2026年度までに水関連リスク管理体制の構築を目指していきます。上記のリスク評価で水関連リスクが懸念された取引先に対しては、EcoVadis社のサステナビリティ評価システム等を活用し、事業活動に伴う水関連リスクの詳細を確認していきます。取引先の事業活動において重大な水関連リスクが特定された場合、現地監査により情報を収集し、是正措置を求めます。
目標
水不足リスク |
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水質汚染リスク |
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サプライチェーンリスク |
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進捗
2023年度の取水量は189.9千m3で、2022年度に比べ6.5千m3を削減(削減率:3.3%)しました。また、基準年である2017年度に比べ135.2千m3の削減(削減率:41.6%)となりました。取水量は、2018年以降、毎年連続して前年度以下となっています。
水使用量削減のための具体的な取り組みとしては、超音波式流量計設置による水使用量の見える化、生産事業所での密閉性の高い扉の導入による防虫用流水トラップの停止、熱排水タンクの熱回収や設定温度調整による冷却水の削減、製薬用水のタンク滅菌作業の最適化、高効率ボイラーへの更新、空冷チラー・全熱交換器への水噴霧停止や水噴霧作動設定温度の変更、高温排水熱回収による冷却水の削減、定期的な漏水点検などの実施が挙げられます。また、事業所の増改築時や設備更新時には、節水型衛生器具を採用しています。
取水量(水資源使用量)
排水量
- 水使用量および排水量のデータ集計サイト:フジヤマ工場/城東製品開発センター/山口工場(2018年度より追加)/水無瀬研究所/福井研究所(研究拠点の再編のため2022年3月に閉所)/筑波研究所/本社およびその他の国内営業所(2023年度より小野薬品ユーディを追加)
水質汚染リスク管理の取り組み
環境中に放出された医薬品有効成分の生態系に及ぼす影響について社会的な関心が高まりつつあります。当社では医薬品の製造工程において医薬品有効成分等の環境中への放出を防止する取り組みを行っています。詳細は生物多様性のページをご覧ください。2022年度から生産の主力であるフジヤマ工場にて、毎年排水の総排水毒性試験(WET試験)を実施しています。2024年度は、WET試験実施の対象を山口工場および筑波研究所にも広げるとともに、2025年度までに工場および研究所の全拠点において毎年WET試験を実施できる体制を整えます。
開発品および医薬品の有効成分については、コンピューターシミュレーションを用いた定量的構造活性相関(QSAR)により環境有害性を予測するとともに、順次、水生生物への影響を評価し、安全データシート(SDS)への情報掲載を進めています。
項目 | 対象範囲 | 単位 | 2021年度 | 2022年度 | 2023年度 |
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法的義務/規制違反の件数 | 全事業所 | 件数 | 0 | 0 | 0 |
上記に関連する罰金額 | 全事業所 | 百万円 | 0 | 0 | 0 |
年度末に発生した環境負債 | 全事業所 | 百万円 | 0 | 0 | 0 |
外部からの評価
当社は、国際環境非営利団体であるCDPが実施している水セキュリティの評価において、最高評価である「Aリスト」に3年連続選出されました(2021~2023年度)。